2013年 03月 18日
さいごのとき
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20日から原美術館で始まる『最後のとき/最初のとき』のために来日したソフィ・カルが、エスパス・イマージュでトーク・ショーをするというので、当日のキャンセル券に期待して春の昼間に会場へ。神楽坂の裏手では一本だけ桜が咲いていた。

トークの前、『ダブル・ブラインド』(原題:no sex last night)という、元夫グレッグとの結婚前の2週間アメリカ横断の記録をもとにした映像の上映から会は始まる。
度重なる車の故障、ぐしゃぐしゃのシーツで迎えるモーテルの朝、単調な道を走り続けるひたすらに退屈な映像、際限なく続くおしゃべりと互いのビデオカメラによる記録──でも私たちは知ってる、この旅の途中、彼らは一度もセックスをしてない。
これは、私の大好きなソフィの単著『本当の話』の中の『夫 十の物語』に詳しいのだけれど、一篇を引用してみようか。
「勃起
わたしたちはアメリカ大陸を横断した。二週間のあいだ、毎朝、自分たちの寝たベッドを見つめながら、わたしは同じセリフを繰り返してため息をついた。“NO sex last night” ラス・ヴェガスに着いて、わたしは彼にわたしと結婚する決心をさせた。この日、それまでの満たされないせりふはYesに変わった……。彼は、きみがぼくの奥さんになったことで欲望が芽生えたんだと打ち明けた。勃起。それは結婚がわたしにもたらしてくれた最初のものだった」(『本当の話』(野崎歓訳・平凡社)
まあこの逃避行、最終的には単調がゆえの絶望をもたらす結果になるのだけど、ソフィ・カルはこういった何かの不在を描き出すのが本当に上手い作家だ。『ダブル・ブラインド』の映像から20年経った現在のソフィがトーク相手の杉本博司氏と話す姿を見て、この底意地の悪さが彼女の作品に強度を与えているのだろうなあとなんだか微笑んでしまったよ。ミランダ・ジュライの比ではありません。(でもソフィ曰く、「プライベートと作品の間には自分なりの線引きがあります」とのこと)

ちなみにこの『ダブル・ブラインド』がDVD化されていないのは、全編を通して流れる音楽に対する権利関係の問題によるものだそう。これってダムタイプのS/Nと同じ理由ね。
今回の原美術館での『最後のとき/最初のとき』は、後天的に失明した人たちとの間の詩作『最後に見たもの』と、生まれて初めて海を見る人たちのポートレートによる『海を見る』の2作がメインだそう。あなたはそこに何の不在を感じる? 楽しみです。
「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」
2013年3月20日(水・祝)- 6月30日(日) 原美術館
http://www.haramuseum.or.jp

Sophie Calleをおもう(2009年10月)

トークの前、『ダブル・ブラインド』(原題:no sex last night)という、元夫グレッグとの結婚前の2週間アメリカ横断の記録をもとにした映像の上映から会は始まる。
度重なる車の故障、ぐしゃぐしゃのシーツで迎えるモーテルの朝、単調な道を走り続けるひたすらに退屈な映像、際限なく続くおしゃべりと互いのビデオカメラによる記録──でも私たちは知ってる、この旅の途中、彼らは一度もセックスをしてない。
これは、私の大好きなソフィの単著『本当の話』の中の『夫 十の物語』に詳しいのだけれど、一篇を引用してみようか。
「勃起
わたしたちはアメリカ大陸を横断した。二週間のあいだ、毎朝、自分たちの寝たベッドを見つめながら、わたしは同じセリフを繰り返してため息をついた。“NO sex last night” ラス・ヴェガスに着いて、わたしは彼にわたしと結婚する決心をさせた。この日、それまでの満たされないせりふはYesに変わった……。彼は、きみがぼくの奥さんになったことで欲望が芽生えたんだと打ち明けた。勃起。それは結婚がわたしにもたらしてくれた最初のものだった」(『本当の話』(野崎歓訳・平凡社)
まあこの逃避行、最終的には単調がゆえの絶望をもたらす結果になるのだけど、ソフィ・カルはこういった何かの不在を描き出すのが本当に上手い作家だ。『ダブル・ブラインド』の映像から20年経った現在のソフィがトーク相手の杉本博司氏と話す姿を見て、この底意地の悪さが彼女の作品に強度を与えているのだろうなあとなんだか微笑んでしまったよ。ミランダ・ジュライの比ではありません。(でもソフィ曰く、「プライベートと作品の間には自分なりの線引きがあります」とのこと)

ちなみにこの『ダブル・ブラインド』がDVD化されていないのは、全編を通して流れる音楽に対する権利関係の問題によるものだそう。これってダムタイプのS/Nと同じ理由ね。
今回の原美術館での『最後のとき/最初のとき』は、後天的に失明した人たちとの間の詩作『最後に見たもの』と、生まれて初めて海を見る人たちのポートレートによる『海を見る』の2作がメインだそう。あなたはそこに何の不在を感じる? 楽しみです。
「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」
2013年3月20日(水・祝)- 6月30日(日) 原美術館
http://www.haramuseum.or.jp

Sophie Calleをおもう(2009年10月)
by iwafuchimisao
| 2013-03-18 07:06
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