2010年 04月 07日
それは本が燃える温度だ
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乙女通信18号のブックカバーをいろんなところで配っていたら、載っているブックリストに目を通した方から、「若い方が庄野潤三さんのお名前を上げるなんて…」と驚かれた。この号で取り上げたのは「庄野潤三『プールサイド小景・静物』」(新潮文庫)に収められている単語「、飛び込む。」

庄野潤三に出会ったのはかつてのmcシスター(ティーン向けの雑誌)の書評欄。ネットもzineもない新潟の山間の田舎高校生には、雑誌のカルチャー欄に書かれていることを全部吸収してやろうという好奇心と、文化に飢えた脳みそだけが自分のものだった。同じ欄に「小島信夫『アメリカン・スクール』も掲載されており、合わせて書店に注文したことをよく覚えている。ベージュ一色の無骨な表紙にそっとタイトル文字を載せたその本が届いたとき、まるでおじさんが読むような本だなあと少し落胆したことも。
一番多感な時期に本を手放さないで良かった、と思う。第三者が校正した文章に多く触れられて良かった、とも。といっても、その当時は目を開けて文字を追うことでしか本が読めないのがもどかしく(それこそ寝る間を惜しんで読書していたのだ)、神経にダイレクトに刺激を与えることで眠りながらでも本が読めないものかと考えていたくらいなので、実はハードとしての本の体裁にはそんなに執着していなかったのだと思う。
多分恐らくだけど、すでに自分の中で速やかに物事を吸収できるピークの時期は過ぎていて、それこそ書籍に書かれていることをしかるべきタイミングで素早く引用できたり、聞いた音楽をその時のシチュエーションを含めて再現できたり、大人がメモを取るのを内心バカにしたりしていたあの頃の鋭敏さと愛すべき鈍感さは、今、少し下の世代に譲られたようだ。そして、これほど情報過多の時代に絶えず好奇心を持ち続けていくことが何より難しい、ということに薄々気づき出しているおのれを実感する。
iPadの登場は出版に影響を与えるかもしれないが、かつていくつかのwebサービスに見られたように(ページめくり動作にこだわるような)今の本の形態を目指すサービスには決して向かわないだろう、という意見には賛成だ。だから今、私は、レイ・ブラッドベリの「華氏四五一度」を読もう。遠い未来(もしくは過去)、本は存在することを認められず、発見され次第炎に焼かれるという世界。やがて一冊まるまる人間一人の頭にしまい隠そうとする人々が現れる…といったSFの物語を通して、自分の生きる世界の様子を逆側から知覚してみよう、と思うのだ。

松岡正剛の千夜千冊

庄野潤三に出会ったのはかつてのmcシスター(ティーン向けの雑誌)の書評欄。ネットもzineもない新潟の山間の田舎高校生には、雑誌のカルチャー欄に書かれていることを全部吸収してやろうという好奇心と、文化に飢えた脳みそだけが自分のものだった。同じ欄に「小島信夫『アメリカン・スクール』も掲載されており、合わせて書店に注文したことをよく覚えている。ベージュ一色の無骨な表紙にそっとタイトル文字を載せたその本が届いたとき、まるでおじさんが読むような本だなあと少し落胆したことも。
一番多感な時期に本を手放さないで良かった、と思う。第三者が校正した文章に多く触れられて良かった、とも。といっても、その当時は目を開けて文字を追うことでしか本が読めないのがもどかしく(それこそ寝る間を惜しんで読書していたのだ)、神経にダイレクトに刺激を与えることで眠りながらでも本が読めないものかと考えていたくらいなので、実はハードとしての本の体裁にはそんなに執着していなかったのだと思う。
多分恐らくだけど、すでに自分の中で速やかに物事を吸収できるピークの時期は過ぎていて、それこそ書籍に書かれていることをしかるべきタイミングで素早く引用できたり、聞いた音楽をその時のシチュエーションを含めて再現できたり、大人がメモを取るのを内心バカにしたりしていたあの頃の鋭敏さと愛すべき鈍感さは、今、少し下の世代に譲られたようだ。そして、これほど情報過多の時代に絶えず好奇心を持ち続けていくことが何より難しい、ということに薄々気づき出しているおのれを実感する。
iPadの登場は出版に影響を与えるかもしれないが、かつていくつかのwebサービスに見られたように(ページめくり動作にこだわるような)今の本の形態を目指すサービスには決して向かわないだろう、という意見には賛成だ。だから今、私は、レイ・ブラッドベリの「華氏四五一度」を読もう。遠い未来(もしくは過去)、本は存在することを認められず、発見され次第炎に焼かれるという世界。やがて一冊まるまる人間一人の頭にしまい隠そうとする人々が現れる…といったSFの物語を通して、自分の生きる世界の様子を逆側から知覚してみよう、と思うのだ。

松岡正剛の千夜千冊
by iwafuchimisao
| 2010-04-07 05:57
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