2012年 05月 11日
お前は何をしようとしているのだ
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ぶらっと入った名前の発音できない店で、私は昼食をとることにした。
一人で通された壁際の小さなテーブルのそばには、ロシア正教の宗教画が掲げられている。
この国では各テーブルにそれぞれ担当の給仕がつくので、店内をせわしく歩き回る給仕達誰にでも声をかけていい、というわけではない。昼時の混雑にも関わらず、テーブルは薄暗い灯りのみで、半地下の店内には窓もない。
読めないロシア語のメニューを広げるのはあきらめて、私は近くのテーブルを見渡してあれと同じものを、と給仕に伝える。
とにかく英語の通じないこの国では、買い物ひとつも苦労する。町の店では商品はすべてガラスケースに入れられていて、無愛想な店員と指さし確認でやりとりして購入しなくてはならない。文化、といってしまえばそれまでだけれど、どうにも慣れないもどかしさは、不思議な発音をする彼らの言語の印象もあるのだろう。
魚にあわせてグラスのワインを追加で頼もうとしたとき、店内の電灯がいっせいに消えた。停電だろうか。窓のない店なので外の様子はわからないが、こういったことはよくあるのか、客も給仕も特に驚いた様子はない。大した騒ぎにもならず、まもなく背の高いろうそくと一緒に豆のスープが運ばれてきた。給仕達が慣れた手つきでそれぞれのテーブルにろうそくを灯していく。
どうして電気がつかないのか、この停電は地区的なものなのか、それともこの店だけなのか、私はテーブルにやってきたかわいらしい給仕に聞いてみた。英語を話す東洋人が珍しいのか、他のテーブルの給仕も寄ってきて親切に教えてくれる。
夏場は電圧が下がるのでよくあることだ、この店だけの停電で、厨房の電力は別にとってあるから料理は心配しないで。ところであなたはヤポーンニャ?
その通り、ワインは冷たく、皿の料理は温かい。運ばれてきた料理は日本人の私の口にも合ったが、ろうそくで照らされた給仕の顔は、笑っているのか悲しんでいるのか判別できなかった。
海を渡って言語もわからないこの国で、お前は何をしようとしているのだ。
そんな風にも言われている気がして、急に肩身の狭い思いでいっぱいになる。(続)
一人で通された壁際の小さなテーブルのそばには、ロシア正教の宗教画が掲げられている。
この国では各テーブルにそれぞれ担当の給仕がつくので、店内をせわしく歩き回る給仕達誰にでも声をかけていい、というわけではない。昼時の混雑にも関わらず、テーブルは薄暗い灯りのみで、半地下の店内には窓もない。
読めないロシア語のメニューを広げるのはあきらめて、私は近くのテーブルを見渡してあれと同じものを、と給仕に伝える。
とにかく英語の通じないこの国では、買い物ひとつも苦労する。町の店では商品はすべてガラスケースに入れられていて、無愛想な店員と指さし確認でやりとりして購入しなくてはならない。文化、といってしまえばそれまでだけれど、どうにも慣れないもどかしさは、不思議な発音をする彼らの言語の印象もあるのだろう。
魚にあわせてグラスのワインを追加で頼もうとしたとき、店内の電灯がいっせいに消えた。停電だろうか。窓のない店なので外の様子はわからないが、こういったことはよくあるのか、客も給仕も特に驚いた様子はない。大した騒ぎにもならず、まもなく背の高いろうそくと一緒に豆のスープが運ばれてきた。給仕達が慣れた手つきでそれぞれのテーブルにろうそくを灯していく。
どうして電気がつかないのか、この停電は地区的なものなのか、それともこの店だけなのか、私はテーブルにやってきたかわいらしい給仕に聞いてみた。英語を話す東洋人が珍しいのか、他のテーブルの給仕も寄ってきて親切に教えてくれる。
夏場は電圧が下がるのでよくあることだ、この店だけの停電で、厨房の電力は別にとってあるから料理は心配しないで。ところであなたはヤポーンニャ?
その通り、ワインは冷たく、皿の料理は温かい。運ばれてきた料理は日本人の私の口にも合ったが、ろうそくで照らされた給仕の顔は、笑っているのか悲しんでいるのか判別できなかった。
海を渡って言語もわからないこの国で、お前は何をしようとしているのだ。
そんな風にも言われている気がして、急に肩身の狭い思いでいっぱいになる。(続)
by iwafuchimisao
| 2012-05-11 06:20
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