2011年 07月 26日
レマン湖の水でブイヨンを作るには、どれだけの牛肉が要るだろうか
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「私は普段から、テキストでメモを残したり、写真で記憶を記録したりと、目に見える形でのアウトプットを重要視しがちなのですが、今回はせっかくこういった機会なので、少し自分とは距離のある表現で何かできないものかと考えまして」
「ここで今一度、今回自分で選んだ参考書のテキストを読ませていただきます──『日常的実践のポイエティーク』ミシェル・ド・セルトーからの一節です。
『要するに、空間とは実践された場所のことである。たとえば都市計画によって幾何学的にできあがった都市は、そこを歩く者たちによって空間に転換させられてしまう。おなじように読むという行為も、記号のシステムがつくりだした場所──書かれたもの──を実践化することによって空間をうみだすのである』」
= = = = =
「私があなたに何か尋ねたとき、そこに立ち上がる空間を考えます。
例えば『美しいと思うもの』とは……?」
「それは一見何気ない問いのように聞こえて、実は答えるのに気恥ずかしい、「今日付けている下着の色」を聞かれるのと同じくらい、プライベートな領域に踏み込んだ質問なのではないでしょうか。誰もがこころに思う美しさみたいなのが必ずあるとは思うのですけれど、普段口にはしない。しかも下着の色と同じで、今日の色と明日の色は違うよ、といった可変性も含んでいて。この問いを介して、「私」と「あなた」の間に、一時的にであれ、私的な距離が生まれることになるのではと考えたわけです」
「さらにこの空間の密度をあげるために、その人の声をもらう、ということをやってみようと思いました。その人の発声、喋る速度、声紋。文字通り、録音して音声データにするわけです。おとぎ話の人魚姫は、その足と引き替えに声を失うのですが、そうですね、このプロセスでは、私の鼓膜に響く声がゼロイチのデジタルデータとしてアーカイブされていきます。これはちょっとスリリングな契約の瞬間です」
「1962年のクラシック・ミステリに、シャーリイ・ジャクスンの『ずっとお城で暮らしてる』というのがあって、私はこのお話がとても好きなんですが、この中で、主人公のメリキャットが自分を守るために三つの言葉を選ぶシーンがあります。曰く、メロディ・グロリアス・ペガサス」
「昔から「3回唱えると」とか「3枚の御札」、「3つの願い」など、3つの言葉というものは何か強い意味を持つと思われております。ここで、3という数字についても少し調べてみました。
数秘学(ヌメロジー)によれば、3は「発展」、方向性を生み出し創造的な力を象徴する数だそうです。二つの対立を越えていくパワー、三つの世界、つまり三位一体の象徴。“創造・維持・破壊”“開始・中間・終了”“過去・現在・未来”“昨日・今日・明日”、なるほど、世の中には様々な「3つで結ばれた要素」が存在します」
「いつだって、自分を守るのは自分で選んだ言葉達なのだと思うと、私のまわりの美しい人たちが唱える3つの美しいものたちは、きっと力のある音楽になるのではないでしょうか。前置きが長くなりましたが、私は今回「美しいと思うもの3つ」を身近な人たちに答えてもらって、その声で新しい音を作りました。3日間で私とコンタクトした人──直接話した人、電話で話した人、メールをくれた人、ツイッターでリプライした人、フェイスブックでいいねをくれた人──33人の声です。
これは、空間を再編集して新たな価値を与えようとする行為ではありません。『そうではなく、空間に問いかけること、あるいはもっと単純に、空間を読むことが問題なのだ。なぜなら、日常と呼ばれているものは、自明であるどころか不可解そのものであり、一種の盲目、麻痺状態のことなのだから』」
「それでは皆様、ご静聴願います………(以下略)」
「ここで今一度、今回自分で選んだ参考書のテキストを読ませていただきます──『日常的実践のポイエティーク』ミシェル・ド・セルトーからの一節です。
『要するに、空間とは実践された場所のことである。たとえば都市計画によって幾何学的にできあがった都市は、そこを歩く者たちによって空間に転換させられてしまう。おなじように読むという行為も、記号のシステムがつくりだした場所──書かれたもの──を実践化することによって空間をうみだすのである』」
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「私があなたに何か尋ねたとき、そこに立ち上がる空間を考えます。
例えば『美しいと思うもの』とは……?」
「それは一見何気ない問いのように聞こえて、実は答えるのに気恥ずかしい、「今日付けている下着の色」を聞かれるのと同じくらい、プライベートな領域に踏み込んだ質問なのではないでしょうか。誰もがこころに思う美しさみたいなのが必ずあるとは思うのですけれど、普段口にはしない。しかも下着の色と同じで、今日の色と明日の色は違うよ、といった可変性も含んでいて。この問いを介して、「私」と「あなた」の間に、一時的にであれ、私的な距離が生まれることになるのではと考えたわけです」
「さらにこの空間の密度をあげるために、その人の声をもらう、ということをやってみようと思いました。その人の発声、喋る速度、声紋。文字通り、録音して音声データにするわけです。おとぎ話の人魚姫は、その足と引き替えに声を失うのですが、そうですね、このプロセスでは、私の鼓膜に響く声がゼロイチのデジタルデータとしてアーカイブされていきます。これはちょっとスリリングな契約の瞬間です」
「1962年のクラシック・ミステリに、シャーリイ・ジャクスンの『ずっとお城で暮らしてる』というのがあって、私はこのお話がとても好きなんですが、この中で、主人公のメリキャットが自分を守るために三つの言葉を選ぶシーンがあります。曰く、メロディ・グロリアス・ペガサス」
「昔から「3回唱えると」とか「3枚の御札」、「3つの願い」など、3つの言葉というものは何か強い意味を持つと思われております。ここで、3という数字についても少し調べてみました。
数秘学(ヌメロジー)によれば、3は「発展」、方向性を生み出し創造的な力を象徴する数だそうです。二つの対立を越えていくパワー、三つの世界、つまり三位一体の象徴。“創造・維持・破壊”“開始・中間・終了”“過去・現在・未来”“昨日・今日・明日”、なるほど、世の中には様々な「3つで結ばれた要素」が存在します」
「いつだって、自分を守るのは自分で選んだ言葉達なのだと思うと、私のまわりの美しい人たちが唱える3つの美しいものたちは、きっと力のある音楽になるのではないでしょうか。前置きが長くなりましたが、私は今回「美しいと思うもの3つ」を身近な人たちに答えてもらって、その声で新しい音を作りました。3日間で私とコンタクトした人──直接話した人、電話で話した人、メールをくれた人、ツイッターでリプライした人、フェイスブックでいいねをくれた人──33人の声です。
これは、空間を再編集して新たな価値を与えようとする行為ではありません。『そうではなく、空間に問いかけること、あるいはもっと単純に、空間を読むことが問題なのだ。なぜなら、日常と呼ばれているものは、自明であるどころか不可解そのものであり、一種の盲目、麻痺状態のことなのだから』」
「それでは皆様、ご静聴願います………(以下略)」
by iwafuchimisao
| 2011-07-26 05:47
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